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2016年4月

2016年4月24日 (日)

私の記憶10 1947年

大きな空襲の被害を受けた大阪市の東隣りに布施市がある。 私たちの引っ越したところには空襲の形跡はまったく 見当たらない。 近鉄の布施駅の近くにはヤミ市がある。 

ここからそう遠くないところに町工場や長屋街がある。 ま わりは同じような平屋の長屋が何列も並ぶ。 長屋の表側 は細い路地となっていて人が行き来する。 裏側は便所の 汲み取り口が並ぶ。 この側は並列して並ぶ次の長屋の 裏側でもある。 (表裏裏表の裏裏) 汲み取り人夫が時々 肥桶をかついで通る細い通路だ。 人が通らないよう道の 両端には木戸がある。 いつも肥の匂いがただよう。 ここ は子供たちの秘密の抜け道で隠れ場でもある。

近所には木は一本も生えていない。 アスファルト舗装などとは無縁だが、路地の両側にはもちろん雑草も生えな い。 すなわち緑とは縁遠い。

私たちは長屋の一軒に入った。 そこには既に、戦前に同 郷の父の親族が郷里で資産を失いこちらに来て住んでい たが、まもなく大阪の省線の環状線の駅から焼け跡を通っ て歩いた所へ引越した。 

近くには小さなアルミ鋳物工場があり、午後の決まった時 間に空き地に炉のコークスの燃えカスを捨てる。 それら が積み重なった山のここかしこで主婦たちが燃えカスを金 槌でたたき、表面の白い燃えきったカスを除くと、中から黒 くてまだ燃やせる塊が出てくる。 これはカンテキ(コンロ) で火をイコシて(燃やして)煮たき物をする良い燃料となる。

第3学期の始めに、両親は私を近くの布施第七国民学校 へ連れて行く。 校長先生「ふうむ、一年生にしては頑丈 そうなええ子や。 がんばれ」。 私は今まで、組の中で大 きい方でもなかった。 歩きこんでいるので、足腰だけは丈 夫だが、他と比べて丈夫というわけでもなかった。 校長先 生の言葉はなんか変だ。 その意味はあとから骨身にしみて理解する。

学校は家からはそう遠くない。 学校は前より少し大きく、2 階建ての木造だ。 一学年には男子の組と女子の組があ る。 国語の時間、若い女の先生は私を皆に紹介する。  順番に教科書の部分を朗読する。 私の番になる。 私は 以前のように大声でよむ。 皆はどっと大笑いする。 私は 田舎の方言のイントネーション丸出しだ。 彼らは大阪弁だ。 休憩時間に取っ組み合いをすると私がたいてい勝 つ。 今までとはだいぶ様子が違う。

3月に学制が改革された。 国民学校初等科は小学校とな り、高等科は新制中学校、いわゆる「シンセイ」となった。 (人々は学校のことも生徒のこともシンセイと呼んだ。) も との中学校は新制高校となった。 組は男女共学になる。  

私は布施第七小学校2年生。 第一学期。 新入生の数が多かったので、二部授業となる。 正午まで の朝行きと午後からの昼行き。 一週間ごとに朝行きと昼 行きは入れ替わる。 家からの登下校時間はほとんどかか らないので時間だけはたっぷり余る。 これまでのような 広々した空間や、自然はない。 私たちはせまい路地を渡 り歩くか、小さな空き地で遊ぶ。

まずはベッタン。 トランプを少し縦長にしたような厚手の カード。 いなかでは、メンコとよんで、学校の裏庭で私た ちはこっそり短時間、丸いカードで遊ぶことはあったが、他 に沢山遊びがあったのでここほど盛んではなかった。 

ベッタンにはいろいろな遊びがあるが、もっとも単純なの は次のとおりである。 まず数人がベッタンを一枚づつ出して、くってから地面に 積み上げる。 じゃんけんで順番を決める。 自分の番が きたら自分の投げ愛用のベッタンを地面に叩きつけ、その カードでひきおこされた風で積み重なったベッタンが裏返 る。 裏返ったやつをもらう。 誰かが負けこんでいやにな るまで続ける。

ところでベッタンで強いのはだれか。 「シンセイ」にきまっ ている。 彼らの投げ専用のベッタンはベッタンを重ねて 張りあわせ、しかもロウを塗り固めていかにも強そうだ。  彼らはもと国民学校の高等科の連中で、今では町の人か ら「シンセイ」、「シンセイ」と呼ばれていて、もとの中学生と はまったく違う、新制中学の連中だ。 いなかの高等科は 働き者で大人の代わりができた。 私たちのような下級生 の遊びには首を突っ込んだりはしなかった。 

私の知る「シ ンセイ」は時間を持て余しており、普段は金物、特に銅線 を拾ってくず鉄屋に持ち込んだり、町工場の走り使いをし たりして小銭を得たり、ぶらついたり。 私たち低学年の 「取ったり」「取られたり」の場面にはときどき割り込んでく る。 そして小さい者からベッタンを巻き上げる。 ベッタン には交換価値があり、ラムネ(ビー玉)やバイ(ベーゴマ) やタバコの取引に貨幣のような役割もする。 

とはいえ「シンセイ」は余ったベッタンや、ラムネ(ビー玉)をくれたり、 勝つコツを教えてくれることもある。 他の地区の子供たち といさかいをおこしたときは防波堤にもなる。 まあ、もちつ もたれつだ。 (つづく)

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